【恩知らず】むかしむかし、ある村に大雪が降りました。・・・(京都の民話)
むかしむかし、ある村に大雪が降りました。
買い物で町へ出かけていた男は村に帰る途中、
この大雪で道に迷ってしまいました。
「困ったな。完全に迷ってしまったぞ。
しかし、この雪の中にとどまっても凍え死ぬだけだ。
とにかく歩かないと」
男が仕方なく吹雪の中を歩いていると、
ふと目の前に大きな影が現れたのです。
「くっ、熊だ!」
男は逃げようとしましたが、
深い雪に足を取られて逃げるに逃げられません。
「もう駄目だ!」
男は死を覚悟して目を閉じましたが、
熊は襲って来ません。
男が恐る恐る目を開けてみると、
熊は後ろ足でむっくり立ち上がり、
器用に前足を動かして、
(こっちへ、こい。こっちへ、こい)
と、手招きをしているのです。
「もしかして、おれをさそっているのか?」
熊が襲ってくる様子はなく、
このまま吹雪の中を立っていても仕方がないので、
男は熊に誘われるまま熊の後をついて行きました。
すると熊は大木に開いている大きな穴の中に入って行って、
穴の中から男に向かって、
(おいで、おいで)
と、また手招きをしました。
「おれを巣穴で、食べるつもりだろうか?
・・・ええい、ここまで来れば、
乗りかかった舟だ!」
男は決心すると、
熊の巣穴へと入って行きました。
熊の巣穴は意外に広く、そして暖かでした。
熊はすぐに眠ってしまい、襲ってくる様子はありません。
男は熊が巣穴に蓄えている木の実と雪を食べて飢えをしのぐと、
熊の背中に添い寝をして暖まりました。
それから四日後、長かった吹雪がようやくやみました。
熊は、まだ眠ったままです。
男は巣穴を出ると、無事に村へと帰って行きました。
村に帰った男は、自分が熊のおかげで助かった事を村人に告げると、
仲間の猟師にこう言いました。
「大きくて毛並みの良い熊を知っている。
そいつを撃ち殺して、売ったお金を山分けにしよう」
こうして男は恩知らずにも、
命を助けてもらった熊を撃ち殺しに行ったのです。
さて、帰って来た男を見つけた熊は、
うれしそうに立ち上がると男に、
(おいで、おいで)
と、手招きをしました。
しかし男が猟師を連れて来た事がわかると、
熊は急に怖い顔になって男に襲いかかったのです。
油断していた男は熊の攻撃を避ける事が出来ず、
そのまま熊に身体を引き裂かれてしまいました。
そしてそれを見て怖くなった猟師は鉄砲を撃つ事も出来ず、
あわてて村へと逃げ帰りました。
この話を聞いた村人は、
「たとえ相手が動物でも恩知らずな事をすれば、あの男の様になる」
と、言い伝えたそうです。
悪い男にそそのかされて「恩知らず」になると、こういう運命になる。
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