【願いを叶えてあげよう】即断できる準備をしておくこと。童話「3つの願い」を思い出して・・

 むかしむかし、ある町はずれに、小さな料理屋がありました。


 この料理屋の夫婦はお金持ちではありませんが、

毎日の食べる物には不自由せず、

健康にもめぐまれて幸せに暮らしていました。


 ある日の夕方、金ピカの服を着た伯爵(はくしゃく)と伯爵夫人(はくしゃくふじん)が、

金の馬車(ばしゃ)に乗って料理屋の前を通りました。


 それを見て、おかみさんが言いました。

「あの人たちみたいに、わたしも一度でいいからすてきなボウシをかぶり、

耳かざりをして馬車に乗ってみたいものだわ」


 すると、主人も言いました。

「そうだな。何をするのにも召使いに手伝ってもらえば、言う事はないね」

「そうなれば、どんなにいいだろうね」

「ああ、そうなりたいね」


 二人はそんな事を言っているうちに、

自分たちの生活が急にみすぼらしく思えてきました。


 おかみさんは、ため息をつきながらつぶやきました。

「こういう時に、仙女(せんにょ)がいてくれたらねえ。

仙女が魔法のつえをひとふりすれば、

どんな願いでもかなうと言うじゃないか」


 そう言ったとたん、

家の中にサッと光が差し込んで美しい女の人が現れたのです。


「せっ、仙女さま?」

「おい、本当に仙女さまが来てくださったぞ!」


 よろこぶ二人に、仙女が言いました。

「あなたたちの話は、みんな聞きました。

 これでもう、不満を言う必要はありませんよ。

 今からあなたたちに、三つの願い事をかなえるチャンスをあげます。

 願い事を口でとなえれば、それだけで願い事がかないます。

 ただし、願い事の取り消しは出来ませんよ 」


 仙女はそう言うと魔法のつえをひとふりして、

スーッと消えました。


「おい、お前。今のを、聞いたか?!」

「ええ、確かに聞きましたよ。願い事が、

それも三つもかなうんですって」


「えへヘへへ。やっと、運が向いてきたな。

三つの願い事か。ここはあわてず、しんちょうに考えないとな」


「お前さん、願い事は何にする?」


「そうだな、やっぱり一番の願いは、長生き出来る事だな」


「でもお前さん、長生きしたって、

働く毎日ではつまらないよ。

願い事は何と言っても、お金持ちになる事だよ」


「それもそうだ。大金持ちになりゃ、

たいていの願い事はかなうからな」


 二人はあれこれ考えましたが、

なかなか良い願い事が思いつきません。


「お前さん、あせっても良い考えはうかばないよ。

今夜一晩、じっくり考えようよ」


「そうだな、あせる事はないな」


 こうして夫婦は、いつものように仕事にとりかかりました。

 しかしおかみさんは台所仕事をしていても、

三つの願い事が気になって仕事がすすみません。


 主人の方も願い事が気になって、仕事がすすみません。


 長い一日が終わって夜になり、

二人はだんろのそばに腰をおろしました。


 おかみさんはだんろの赤い火を見ながら、

思わずつぶやきました。


「この火でソーセージを焼いたら、きっとおいしいだろうね。

今夜は願い事の前祝いに、一メートルもあるソーセージでも食べてみたいね」


 おかみさんがそう言ったとたん、

天井から一メートルの大きなソーセージが落ちてきたのです。


「えっ、うそ! 今のはなしよ!」

 おかみさんはあわてて言いましたが、

願い事の取り消しは出来ません。


 これで願い事は、残り二つです。


 すると主人が、おかみさんに怒鳴りました。

「このまぬけ! お前の食いしん坊のおかげで、

大事な願い事が一つへってしまったぞ! 

何てもったいない! 

こんなソーセージなんか、お前の鼻にでもぶらさげておけ!」

 主人がそう言ったとたん、

ソーセージがおかみさんの鼻にくっついてしまいました。


「しっ、しまった!」

 主人はあわててソーセージを引っ張りましたが、

おかみさんの鼻にくっついたソーセージはどうしてもとれません。


 これで願い事は、残り一つです。

 鼻にソーセージをくっつけたおかみさんは、大声で泣き出しました。


「あーん、こんなみっともない姿じゃ、どこにも行けないわ!」 

 それを見て、主人が言いました。


「泣くんじゃない! 

それよりも願い事をむだ使いする前に、

最後の願いを言ってしまうおう。

ここはやっぱり、大金持ちにしてもらおうじゃないか」


 するとおかみさんが、泣きながら言いました。

「おだまり! 最後の願いは決まっているよ! 

どうぞ、このソーセージが鼻から取りますように!」


 そのとたん、ソーセージは鼻から取れて床に転がりました。

「ああっ、最後の願い事が・・・」


 主人はがっかりですが、

おかみさんは鼻からソーセージが取れて一安心です。


 おかみさんはソーセージをひろうと、

だんろの火で焼きながら言いました。


「くよくよしても、仕方がないよ。

それより晩ご飯は、ソーセージだよ。おいしそうだね」


「・・・ああ、おいしそうだな」


 それから二人は二度と不満を言わず、

今の暮らしを大切にしたということです。


おしまい

豊かな人生の道標~人生一度っきり。

人生の後半にさしかかって、やっと「自分の人生」について見えてくるもの。 さあ、はじめよう、思い立ったときがチャンス!